シルシ 「なくしちゃったんです」 彼は、繰り返した。 「なくしちゃった・・・」 目の前の少年は、英雄というにはあまりにもあどけなくて くりくりとした大きな瞳は、血はつながっていないと聞いたけれど 彼の姉にそっくりだった。 結局、最後には、何かを失うのだ。 それも、大切な何かを。 僕達は、その大切な何かを守るために、戦ってたはずなのに どこをどう間違えたらこうなってしまうんだろう 全てを終えた時に、君はここにいない。 あの時の、僕が、今、ここにいる。 「僕は考えたことなかった・・・んです。  ナナミが、ジョウイが、僕の傍からいなくなることなんて。  ジョウイがハイランドに行ってしまってからでも  いつかまた会えるって、昔のように戻れるって  バカみたいに信じてた。  殺し合いをしてるのに、戦争をしてたのに  僕とジョウイは、また、一緒に・・・  キャロの村みたいなところで、ナナミも一緒に  稽古なんかしたりして・・・」 だから、君は、そんな頼りなげな腕で、戦い続けてこられたんだね。 「ジョウイは、分かってた。  僕よりもずっと、見えてた。  先に何があるか分かってて、前に進んでた。  僕らから離れてしまったあの時に、もう、決めてたんだ。  僕らのところには戻らないって」 「僕は・・・本当にバカだ・・・」 途中で投げ出してしまえばよかった? どこかに逃げればよかった? 一生負い目を背負って生きていくことになっても 君は、それでも、今よりは幸せだったかもしれない。 だって、君には何も残らなかった。 ナナミも、ジョウイも。 きっと、君にとってそれにかわるものなど、他には無いだろうに。 年を重ねれば、失われるものばかり。 でも、僕は、出会いを後悔していないんだよ。 僕の前で長い生を終えた友も、僕に願いを託して逝った女性も、108星の仲間も 全て、この腕のシルシが引き合わせてくれたもの。 色々なものを、僕から奪いはしたけれど 僕の中に、色々なものを残してくれてもいたんだよ。 だから、僕は、後悔はしていないんだよ。 じゃあ、君は? 君にとって、君の腕に宿ったシルシは、どんな意味を持つんだろう? 君の親友を奪い、姉を奪ったそのシルシで、君はかわりに何を得ることができたんだろう? −なくしちゃったんです− 慰めてくれる手も、笑いかける声もなくしてしまった。 なくすために、君は、その腕のシルシを手にした。 君は、同情など欲しないだろう。 癒されることも望まないだろう。 君は、ひとりで、ここに立っている。 そして、ひとりで、歩き出すだろう。 僕は、見ているよ。 君が、たったひとりで前へ進んで行く様を。 「大丈夫」 姉の口癖だった言葉を、笑顔と共に吐き出して 少年は、最初の一歩を踏み出す。 fin.








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