何でさ、告白しなかったのさ。
だってさ、亜久津ったらタバコをスパスパと3本ばかり吸って、それから、何も言わずに出て行ったから。
待ってたんだべよ。
何をさ。
お前が告白すんのをさ。
嘘だ!
だってさ、亜久津、ぜってーのこと好きだって。
絶対?
う…気に入ってるとは思うよ。
弱気になるなよー。ね、千石、亜久津はわたしのこと好きなんだな。
う…多分。
なんだよぉ、それとなく聞いてきて!
ヤダね、何でそんなことすんだよ、オレが。
友達だろー、千石、わたしのこと好きだろー。
好きじゃねぇ、むしろ、キライだ。
な ん て こ と ! !
がーん…
がーん…
ガーン…
ショック…
…じょーだんだってばよ。
千石のアホ。
でもな、に協力する気はねーから、そのつもりで。
そのつもりでってなんだよ。最近、ほんとに冷たい、千石くんたら。
フン、に優しくしたって何の得にもなんねーからね。ヤらせてくれるわけでもないし。
なんだよー、千石はわたしとエッチしたかったの?早く言ってくれれば…。
やらせてくれんの?
んなわけないじゃん。
、処女?
ったりめーだ、コラ!
処女か…ウヒヒ…いーなー。
エロ、バカ、死ね!!
だってさ、きっとだってさ、初めてやる時は泣きそーな顔すんだぜ。ヤダとか、イタイとかって言うんだぜ。こーふんするべ?
…千石って、変態だよな。
健全な青少年だ。
ほんとに、いっぺん死んどけ!
「さむー」
塾帰り。
千石にエライ!とか言われたけど(微妙にバカにされてる気が)、わたしは塾に通ってるんだよ。
亜久津には確実にバカにされるから言ってない。
そこそこに勉強できたら、それはそれは生きやすいこの世界。
それに、塾には顔見知りが全然いないから、そこにいるわたしは学校でのわたしとは全く別の人格を持ってて、
それが楽しかったりもして。
午後9時。
コンビニに入る。
おなか空いたし、コーヒーを買おう。
不味いけど、仕方ない。
ブラックを買おう。
亜久津が買えって言ったから。
…確か。
制服のわたし。
綺麗な服を着た、女の子。
同い年くらいかな。
化粧濃い。
でも、綺麗。
ちょっと、派手。
わたし、地味。
でな。
千石。
わたしは見ちゃったんだよ。
どうしよう。
心臓が跳ね上がったんだ。
血が集まりすぎて、ギリギリギュウって痛くなったんだ。
「亜久津…」
一緒に、並んで、お買い物してた。
亜久津も、私服で。
まるで、別人みたいで。
でも、やっぱり、亜久津で。
心臓が、ダメだ、好きだ、ダメだ、好きだって、バクバクドキドキしてて。
ダメだ、泣く。
「誰?その人?」
わたしに気がついた亜久津の顔に向かって、声は出さずに、口だけ動かしてた。
亜久津が近付いてきた。
持ってたコーヒーが勝手に落ちた。
手が震えた。
足が震えた。
だって、逃げたかった。
だって、知られちゃいけないと思った。
だって、平気な顔して、いいねー、彼女とお買い物ー?とか言える訳ない。
「ねー、仁、何にすんのー?」
仁って誰だよ?
あー…亜久津のことか…。
「煩い、帰るぜ」
んじゃ、わたしも帰ろう。
コーヒー落っことしたままだけど、ごめん。
走って帰ります!
コートとカバンが重かったけど、とにかく走った。
つか、カバンを投げ捨てたいと思ったんだけど。
明日困るし。
そしたら、カバンの口が勝手に開いて、中身が地面に散らばった。
「わ!サイアク!!」
わたしは慌ててしゃがんで中身を拾い集めた。
大慌てて掻き集めて、カバンの中に突っ込む。
涙が、出てきた。
何故って…。
亜久津は、追いかけてきてくれなかった。
追いかけてきてくれなかったから。
しゃがみ込んだままたくさん泣いた。
傍を通り過ぎる人が、変な目で見ているのは分かっていたんだけど。
だって、止まらないんだもん。
酔っ払ったおじさんが「どうしたのー」と、わたしの手を引っ張ろうとしたので、
怖くなって、鼻水がずるずるの顔で、わたしは立ち上がって、しゃくり上げながら家路に着いた。
次の日、千石清純と一言も言葉を交わさずにわたしは学校を終えて、それはどうしてなのか
多分、あの冷たい道路の上に、ひとつだけ転がったままの使いかけの消しゴムが霞んで見えなくなったあの時の涙を、
また繰り返しそうになるから千石とは話せなかったんだと、今日の赤い目と同じように腫れぼったい頭で考えた。
わたしは
勝手に走って、勝手に泣いたんだから。
end.